先日とうとう『余命10年』を読了した。
竹ノ塚の駅ちかにある古びた書店屋で偶然見つけたこの本。
ふいにページをめくり、おもむろに筆者の欄に目を通す。
本作の編集が終わった直後、病状が悪化。刊行を待つことなく、2017年2月逝去。
この一文を見た瞬間なにか言いしれぬものを感じ、「これは読まないと…」っていう焦りにも似た感覚が襲ってきたのを今でも鮮明に覚えている。
小説『余命10年』という作品
本作は、二十歳で余命10年を宣告された女の子のものがたり。
主人公の茉莉はいわゆる普通の女の子、「余命10年」と宣告されたことを除いては。
そんな茉莉が余命を宣告されながら、どのように考えどんな10年を歩んでいったのか。
よくありがちなこのストーリーに作者欄のあの一文が重なる。
読後の今となっては大変遺憾の気持ちでいっぱいなのだが、
小説『余命10年』はフィクションでありながらノンフィクション作品なのだ。
『余命10年』を読んで溢れ出た「葛藤」と「死生観」
本作は2007年に刊行された「余命10年」を大幅に加筆修正したもので、奇しくも10年後の2017年に出版された。
ヒロインの茉莉が発する一言一言、頭に浮かぶ喜びや不安の葛藤が筆者の心を介して出てきたような感じがして、読み進めながら何度も何度も胸が締め付けられる思いでいっぱいになった。
章の終わりに飾られる茉莉のモノローグは、筆者の病と向き合う姿や感情がダイレクトに伝わってきて、死という概念をまざまざと見せつけられたような気がした。
もし自分が余命10年を宣告されたらどう生きるのだろう。
本作を読んでいるとそう考えずにはいられなかった。
家族、恋愛、夢、未来、、、
そんな誰でも持っている当たり前のものを余命10年という短くも長い時間の中で、どう折り合いをつけて生きていくのだろう。
想像するだけでもぞっと怖くなる。
でも、その死という概念は特異なことではく、日常性を帯びた誰にでも当たり前に起こりうる当たり前の出来事なのだと本作を通じて強く感じた。
人はいつかは死ぬ。それは誰も逃れられない普遍の理。
そして、その死はいつ誰に訪れるかわからない。わたしにもあなたにもふいに訪れるもの。
それはもしかしたら明日なのかもしれない。
そんな死という概念の日常性を小説『寿命10年』は再認識させてくれた気がする。
忘れられないモノローグ(独白)
命が恋しくて、時間がいとおしくてたまらない。
愛する人と別れることが死だと思った。
けれど、いとおしいと思えた自分と別れることも死なんだよね。こんなことならもっと自分を大切にすればよかった。わたしを一番大切にできるのは、わたししかいないんだから。
もっと早く、いろんなことに気づけたらよかったな。
読後のいまでも、茉莉のこの言葉(モノローグ)が胸に刺さって忘れられない。
日常を生きている私たちはそれを当たり前のものだと感じながら、無機質にそして惰性的に多くの幸せや大切なものを見落としているのではないのだろうか。
死という概念は1人の人間にはあまりにも大きいと感じる。
それゆえみんなそのことを知ってか知らずか、考えないように生きている気さえする。
もちろんこのわたし自身もその一人だ。
本作を読んで、茉莉(筆者)の想いや葛藤に触れて、
私自身は死の概念を頭の片隅にそっとしまいながら、日常に溢れる小さな幸せに気づいていこうと強く強く思った。
まとめ
死の準備はできた。
だからあとは精一杯生きてみるよ。
茉莉(筆者)のこの言葉を聞いてあなたは何を思いますか。
あなたがもし余命10年と宣告されたら、どのような人生を歩みますか?
著者(小坂流加)が最後に残した命の灯火をぜひとも手に取って読んでいただきたい。
そこにはあなたの心を揺さぶる何かがあるはずだから。
読了。
電車の中、会社の休憩室問わず、目が潤んで潤んで仕方無かった。この世界の何気ない日常と当たり前のように過ぎる一日一日の尊さ。
ぼくがこれから生きていく世界は、誰かが必死で生きたかった未来なんだなって再認識させられた。#余命10年 pic.twitter.com/Ggu97qCEQ8
— 悠才@らんま1/2 (@yusai0713) 2017年10月26日
書店をのぞいてみると、『余命10年』がいつのまにか33万部突破していて嬉しさが込み上げてきた。
できればもっと多くの人に読んでもらいたいし、映画化もして欲しい。
読了してから1年半以上経ついまでも、余命10年を応援する心の灯火は消えていない。
余命10年を読んで1年半経つけど、33万部突破したのか。
心に響く小説だったから、もっともっと伸びて映画化もしてほしい。#余命10年 pic.twitter.com/3AUfKxBC12
— 悠才 (@yusai0713) 2019年5月9日
後日談:小坂流加『生きてさえいれば』も読んでみた。
記事は書いていないが、小坂流加さんの最後の作品『生きてさえいれば』も読ませていただいた。
心揺さぶる内容で、心温まるエンディング。
余命10年と同様に「名作」と言っても過言ではないだろう。
個人的にはかなり好きな内容だった。(前半の描写がやや難しく感じたが…)
『余命10年』を読まれて感銘を受けたという方は、この『生きてさえいれば』もぜひご拝読してみて欲しい。
小坂流加さんの思いが伝わる、命の大切さが身に沁みる。
そんな小説なので。